埼玉医科大学病院 臨床検査医学 (中央検査部)

シャーガス病についてのご案内

シャーガス病検査 いつでもご相談ください

 当院中央検査部では、外部医療機関で患者を診療した担当医が「診療上必要」と判断された場合、各種シャーガス病検査の御依頼を受け付けております。検査費用は無料です。検査希望の場合は、「お問い合わせ」より検査依頼を行ってください。なお、一般の方からの検査依頼はお引き受けできません。まずは医療機関にご相談ください。

  • 検査にあたり、患者さまの簡単な病歴を聴取させていただきます。
  • 依頼の際、患者さんの「氏名」「生年月日」「氏名」「カルテID」など、個人が特定できる情報の記載をされないようにお願いいたします。

シャーガス病とは

 シャーガス病は中南米で流行する疾患で、Trpanosoma cruzi(T. cruzi)という寄生虫(原虫)により引き起こされる疾患です。一度感染すると慢性化し、感染から数十年経過した後に、心合併症(不整脈、拡張型心筋症、心室瘤など)や消化管合併症(巨大食道症、巨大結腸症)起こします。致死的な不整脈により、突然死のリスクがある疾患のため、適切な診断と、外来で注意深い経過観察が重要な疾患です。
 国内にも約25万人の中南米移民が共住しており、母国でシャーガス病に感染した後、日本に移住された方が数多くいると推察されています。

 T.cruziへの感染は、中南米のみに生息する「サシガメ」(画像はこちら)という吸血昆虫を介して拡大します。サシガメがシャーガス病患者の血液や、T. cruziに感染した哺乳類の血液を吸血すると、その体内でT. cruziが増殖します。サシガメはヒトを吸血する際、同時に糞便を排出する習性があります。サシガメの糞便中にはT.cruziが大量に含まれており、サシガメの糞便がヒトの粘膜に刷り込まれたり、誤って摂食することで、感染します。

 その他、シャーガス病に感染した妊婦から胎児に感染が起きる「先天感染」や、「臓器移植・輸血を関した感染」が起きる可能性があります。国内には「サシガメ」は生息していないため、新たな患者の発生は主にこれらの感染経路により引き起こされると考えています。

 シャーガス病の病期は、大きく、感染初期の「急性期」、その後の「慢性期」に大別されます。感染初期の数か月を「急性期」と呼び、血液中にT. cruziは大量に検出されます。この時期には、発熱、リンパ節腫脹、倦怠感、関節痛などの非特異的症状のほか、心筋炎・図膜炎などの重篤な症状を引き起こすこともあります。しかし、多くの患者は無症候性であり、この時期に診断される患者はごくわずかです。
 慢性期では、合併症が顕在化するまで長期にわたり無症状で経過します。患者の多くは、心合併症などが進行し、動悸、息切れなどの症状が顕在化した状態で、初めて病院を受診され、シャーガス病と診断されます。
トリパノソーマを媒介するサシガメ
シャーガス病患者でみられた巨大結腸症
土壁の隙間からサシガメが侵入する

国内のシャーガス病の患者数について

 これまで、EUで実施された中南米移民の抗体陽性率を元に、国内患者数は最大3,000人程度と推定されていました。しかし、日本に居住する中南米移民は過去に日本から中南米に移民した、日系人とその子孫が中心となります。EUとは集団が異なるため、この推定患者数は正確ではないと予想されます。

 日本赤十字社は2019年に、中南米移民からの献血血液における、シャーガス病スクリーニング検査の結果を公表しています。18000件の献血血液が検査された結果、3件から抗体陽性が確認されました。陽性率はわずか 0.016%であり、国内におけるシャーガス病患者数は、過去推定されていたよりも極めて少ない可能性があります。

 また、長崎大学を中心とした研究グループにおいて、地域レベルのスクリーニング検査も実施されています。この場合においても、陽性患者はボリビア移民のみで確認されました。

 これらの結果を勘案すると、国内におけるシャーガス病患者数は多くても数百人程度と推察されますが、国内においてもシャーガス病に対する公衆衛生対策、検査・治療体制の整備を行う必要があると考えられています。

シャーガス病の検査について

  シャーガス病は、抗T. cruzi抗体の検出により、簡単に診断が可能です。しかし、下記に挙げるいくつかの点で、検査・診断までのハードルは非常に高くなっています。

1)シャーガス病患者の多くは無症候性のため、病院受診の機会に乏しい
2)疾患の認知度が低く、患者をみた臨床医が疾患を想起しない
3)国内で保険適応のあるシャーガス病検査が存在しない

  そのため、中央検査部では、中南米移民の方への啓発活動、医療者への教育活動、検査法の評価と提供を実施することで、国内シャーガス病診断・治療体制の向上に寄与しています。



  当院で実施可能な検査についての詳細情報は(こちら)から以下の論文がダウンロードできます。


資料:折原 悠太 ほか. 国内で入手可能な抗Trypanosoma cruzi抗体検出試薬についての有効性. 医学検査 Vol.71 No.1 (2022) pp. 20–24 DOI: 10.14932/jamt.21-43

シャーガス病の治療について

シャーガス病の原因となるT. cruziに対しては、ベンズニダゾール、ニフルチモックスの2剤が有効です。国内で治療薬の保管は行われていませんが、WHOから個別に取り寄せが可能です。

治療効果と副作用の観点から、シャーガス病の治療対象は、に限られています。
1)急性感染もしくは先天感染の患者
2)無症候性かつ50歳以下の患者
心合併症を有した方への治療は一般的ではないため、いかに早く患者を診断し、治療を行うかが重要となってきます。

これまでの検査実績

(建設中)

これからの展望

検査可能施設の拡大
教育・普及活動
妊婦における抗体有病率調査

これまでの活動業績 (Publications)

  1. Iglesias Rodríguez IM, Miura S, Maeda T, Imai K, Smith C, Vasquez Velasquez C, Honda S, Hirayama K. Analysis of the Chagas disease situation in Japan: a cross sectional study and cost-effectiveness analysis of a Chagas disease screening program. Lancet Reg Health West Pac. 2022 Sep 5;31:100574. doi: 10.1016/j.lanwpc.2022.100574. eCollection 2023 Feb. PMID: 36879788.
  2. Imai K, Murakami T, Misawa K, Fujikura Y, Kawana A, Tarumoto N, Maesaki S, Maeda T. Optimization and evaluation of the ARCHITECT Chagas assay and in-house ELISA for Chagas disease in clinical settings in Japan. Parasitol Int. 2021 Feb;80:102221. PMID: 33137505.
  3. Imai K, Misawa K, Osa M, Tarumoto N, Sakai J, Mikita K, Sayama Y, Fujikura Y, Kawana A, Murakami T, Maesaki S, Miura S, Maeda T. Chagas disease: a report of 17 suspected cases in Japan, 2012-2017. Trop Med Health. 2019 Jun 13;47:38. PMID: 31223270.
  4. Imai K, Maeda T, Sayama Y, Osa M, Mikita K, Kurane I, Miyahira Y, Kawana A, Miura S. Chronic Chagas disease with advanced cardiac complications in Japan: Case report and literature review. Parasitol Int. 2015 Oct;64(5):240-2. PMID: 25744336.
  5. Imai K, Maeda T, Sayama Y, Mikita K, Fujikura Y, Misawa K, Nagumo M, Iwata O, Ono T, Kurane I, Miyahira Y, Kawana A, Miura S. Mother-to-child transmission of congenital Chagas disease, Japan. Emerg Infect Dis. 2014 Jan;20(1):146-8. PMID: 24378113.

学会ガイドライン(リンク)「寄生虫症薬物治療の手引き 改訂( 2020年)第10.2版」
(リンクはこちら)

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