〜 研究参加施設を随時募集中です ~
唾液を用いた梅毒診断法の開発および疫学調査にご協力いただける研究参加施設を随時募集しております。特に、臨床検体および情報の収集が可能な施設を求めています。地域、施設規模、診療科、症例登録数に制限はありません。具体的には、以下の2点についてご協力をお願い申し上げます。
- 梅毒患者さんからの性器潰瘍スワブおよび唾液の収集
- 臨床情報の収集
研究へのご協力をご希望される場合は、当研究所のホームページのお問い合わせフォームよりご連絡ください。なお、一般の方からの協力依頼はお受けできませんので、予めご了承ください。
〜 梅毒の診断 〜
病原体であるT. pallidumは培養できないため、診断には採血を用いた抗体検査が一般的に使用されます。しかし、感染初期には抗体が陰性となる場合も多く、初期の早期診断は難しいとされています。性器に潰瘍病変がある患者でも、1〜2割の方が抗体検査で陰性となることがあります。また、梅毒は無症候性で経過することが多いため、症状がない方でもリスクがある場合は検査が推奨されます。しかし、検査には採血が必要であり、採血や痛みを避けたいと考える方には検査の機会が限られることがあります。
性器潰瘍病変をぬぐったスワブを用いた遺伝子検査は、1期梅毒の早期診断に有用とされていますが、検出率は72〜95%と幅があり、偽陰性のリスクが高い検査方法です。また、これまでのところ、十分な臨床評価は行われておらず、体外診断薬や保険適用の検査法はまだ承認されていません。
〜 唾液を用いた病原体解析 〜
唾液から高率にT. pallidum遺伝子が検出可能であることが明らかになったため、診断のみならず病原体解析にも応用できないか検討を行いました。
そこで、世界中で広く用いられているMLST(Multi Locus Sequencing Typing)法を用いて、唾液からのT. pallidum遺伝子型解析を試みました。研究参加者のうち、T. pallidum遺伝子が確認された57検体中、48検体で遺伝子型解析が可能でした。この成功率は、全体の患者サンプルでは約半数、2期梅毒患者に限定すると約8割に達しました。従来、2期梅毒や潜伏期患者を対象とした遺伝子型調査には、咽頭スワブや血液が使用されていましたが、菌量が少なく、成功率は3〜4割程度でした。唾液を用いた病原体解析では、解析成功率を大幅に向上させることができました。
さらに、病原体にはさまざまな遺伝子型が含まれており、これまで報告されていない新たな遺伝子型も発見されました。
〜 今後の展望について 〜
これまで、以下の3点に取り組んできました。
- 臨床現場で利用可能性の高い梅毒診断用LAMP法の開発
- 唾液および尿検体を用いた梅毒診断の可能性の示唆
- 唾液を用いた病原体解析が可能であることの明確化
唾液を使用することで、採血を避けたいと考える患者が梅毒検査を受ける契機となり、国内での患者発見や治療に貢献できると予想されます。また、国内でのT. pallidum病原体調査には、主に1期梅毒患者の性器潰瘍スワブが使用されてきましたが、この方法では解析数が限られるという課題がありました。
本研究の成果を基に、今後は病原体調査に唾液が積極的に活用されるようになれば、1期梅毒だけでなく、2期・潜伏期梅毒も調査対象に含めることが可能になります。唾液はスワブよりも採取が容易であり、より広範囲な人々を対象に調査を行うことができるため、国内の疫学調査は大きく加速するものと期待されます。
我々の研究グループでは、これらの成果をさらに発展させ、診断法の改良や遺伝子検査以外の手法を用いたアプローチ、さらにはT. pallidum病原体解析の進展を目指しています。今後、検体収集や臨床情報の収集において皆様からのご協力をいただけることが、さらなる成果につながり、最終的には国内における梅毒流行抑制策に大きく貢献できると信じています。